医療的ケアとは

経管栄養・吸引などの「日常生活に必要な医療的な生活援助行為」を、「治療行為としての医療行為」とは区別して「医療的ケア」と呼びます。医学的な判断が必要であるが、医師や看護師にしかその行為が許されないとなると、医療的ケア児は在宅で生活を送ることはできません。医師の指導のもと家族が「日常的に必要な医療的な生活援助行為」を行うことが、医療的ケア児が在宅で生活をはじめる前提となります。代表的な医療的ケアには痰の吸引や経管栄養の注入があります。


<代表的な医療的ケアについて>

ここでは、吸引と経管栄養の2つについてご説明します。この医療的ケアに含まれる、5つの特定行為は、(①口腔吸引②鼻腔吸引③気管カニューレ内吸引④経鼻経管栄養⑤胃ろう・腸ろう)所定の研修を修了することによって、医師や看護師などの医療従事者だけでなく、教員(特別支援学校などの教育現場)やヘルパーも対応可能となる医療的ケアです。比較的多くの方に周知されはじめている代表的な医療的ケアです。


1.口腔・鼻腔・気管内・咽頭部吸引

嚥下に問題があるなど、様々な理由からうまく飲み込めない、咳として自身で吐き出すことができない場合等に吸引が必要となります。吸引の内容は、口腔内、上気道(口腔・鼻腔・咽頭)までの空気の通り道に貯まった、貯留物や分泌物を対象とします。吸引には、専用のチューブと電動吸引器を使用します。貯留物や分泌物が貯まると、呼吸困難に陥る可能性があるので、その都度吸引を行います。

(※気管内・咽頭部吸引は、特定行為には含まれません。)


2.気管カニューレ内吸引

気管切開していると、身体にとってカニューレが異物であるため、カニューレ自体が刺激となり分泌物が増加します。そのため、気管切開をするとカニューレ内の貯留物や分泌物を体外に排出するために、吸引が必要となります。吸引には、専用のチューブと電動吸引器を使用します。カニューレ内の貯留物や分泌物が貯まると、呼吸困難に陥る可能性があるので、その都度吸引を行います。


気管切開とは

気管切開を行う理由としては、①上気道の狭窄や閉塞がある②下気道分泌物・貯留物の排除・誤嚥防止③呼吸器不全の管理などがあげられます。簡単に言うと、「首から直接、気管に穴をあけること」を意味します。気管(のどの下)に穴をあけて、カニューレというやわらかな管を差し込み、新たな気道を確保します。気管切開をすると気管切開孔から呼吸をすることになります。気管切開を行うと新たな気道が確保されるため、呼吸がスムーズに行えます。気管切開部には、衛生管理が必要となります。


吸引の頻度

吸引は、貯留物や分泌物が貯まったタイミングで必要に応じて行います。就寝中の深夜も含め、多い時には1日に数十回以上行うことがあります。また、体調が悪化している時には5分おきの吸引が必要になるなど、頻回に吸引を行う状況もあります。医療的ケア児の保護者は、24時間体制で吸引を行っています。

※個人の状況により、吸引の頻度は大きく異なります。


3.経管栄養(経鼻・胃ろう・腸ろう)

経鼻

鼻から胃にかけ長い専用のチューブを入れます。(チューブは鼻から挿入し、胃内に留置します。)チューブは位置がずれないように顔にテープを貼り固定します。このチューブを使用して、流動食や栄養剤などの液体状のものを栄養として注入します。

胃ろう・腸ろう

手術によって胃や腸に穴を開け、胃ろうや腸ろうを造設します。専用の接続チューブを胃ろうや腸ろうに接続し、このチューブから流動食や栄養剤などの液体状のものを注入します。(胃ろうは、半固形剤やペースト食の注入も可能です。)



<人工呼吸器使用などの高度な医療的ケアについて>

ここでは、人工呼吸器を使用する医療的ケアについてご説明します。自発呼吸が困難な方や、呼吸に補助が必要な方が人工呼吸器という機械を使用します。

人工呼吸器の使用方法には、侵襲的換気療法と非侵襲的換気療法の2つがあります。

① 侵襲的換気療法

挿管や気管切開をした上で、人工呼吸器を使用します。

② 非侵襲的換気療法

人工気道(気管チューブ、気管切開チューブ)を留置せず、マスク等を使用し口鼻を覆い、上気道から陽圧換気を行う方法です。NIPPV あるいは NPPV と略されます。主に鼻マスク又は口鼻マスクを使用します。


在宅用人工呼吸器

人工呼吸器を使用している医療的ケア児は、在宅では在宅用人工呼吸器を使用しています。在宅用人工呼吸器の使用にあたっては、気管切開をして在宅用人工呼吸器を使用する方法(侵襲的換気療法)と、フェイスマスクを介し、人工呼吸器を使用する方法(非侵襲的換気療法)があります。フェイスマスクの種類としては、鼻、口鼻マスクが一般的に良く使われています。近年は、手軽に利用できる(気管切開の管理の問題や本人への侵襲負担から)フェイスマスクタイプの人工呼吸器を使用している医療的ケア児も増えています。最近では、ネーザルハイフロー(NHF)療法という、経鼻カニュラを通して鼻腔内に高流量の空気または、酸素混合ガスを吸入させる方法を必要とする医療的ケア児もいます。

※近年では、人工呼吸器以外にも排痰補助装置を使用しているなど、様々な医療機器を常時使用している医療的ケア児が多くなっています。


※なおこのページでご紹介する医療的ケアは医療的ケアのごく一部です。医療的ケアの種類は多種に及び、個人により必要とする医療的ケアの内容は大きく異なります。


<高度な医療的ケアを必要とする児童の就学について>

(*)在宅用人工呼吸器などの医療機器を使用し、在宅で生活する医療的ケア児の数は年々増加しています。

しかし、このような状況の医療的ケア児については、特別支援学校で受け入れ体制が整っていないことから、就学する際には、医療的ケア児の見守りのために学校内で保護者が付き添うことや、日々の学校への送迎を保護者が行うことを求められる現状があります。

重症心身障がい児を受け入れている福祉施設等(児童発達支援・放課後等デイサービス等)では、このような高度な医療的ケアを必要とする医療的ケア児も受け入れ体制が確立されており、保護者の付き添いが求められることはほとんどありません。特別支援学校等の教育現場においても、在宅用人工呼吸器等を使用するなど、高度な医療的ケアを必要とする医療的ケア児に対応していくことが求められます。

(*)(文部科学省HPより)


<保護者(家族)の医療的ケア手技獲得について>

医療的ケア児の保護者が医療的ケア児と在宅で生活を営んでいくためには、医療的ケアの手技を獲得することが必須です。多くの保護者は、医療の知識はなく、初めて経験する医療的ケアに戸惑いながら、病院で医師や看護師から医療的ケアの手技を学びます。医療的ケア児の障がいの重症度が高いほど、医療的ケアの内容も高度になり、手技獲得までに時間を要します。

そして、在宅生活を開始した後も慣れない医療的ケアの手技に大きな不安を感じながら、日々試行錯誤を繰り返し、医療的ケアの技術を向上させていきます。また、医療的ケア児の子育ては、24時間見守りが必要であり、保護者は様々な工夫をしながら医療的ケア児を養育しています。


<医療的ケアを担える人材の確保>

医療従事者の中には、医療的ケアを経験したことがない、医療的ケアに不安があるといった声があるかもしれません。多くの医療従事者の方が医療的ケアの重要性を認識し、手技を獲得していくことが、医療的ケアを担える人材の確保につながります。医療的ケア児の様々な問題の解決のためには、保護者(家族)以外の医療的ケアを担える人材の確保が重要であると考えます。